共同親権とは、離婚後も両親が子どもの養育に対して共同で責任を負う制度のことを指します。日本では、現行の民法において離婚後の親権はどちらか一方の親にのみ与えられる「単独親権」が原則でしたが、2024年5月に改正民法が国会で可決され、単独親権と共同親権を離婚時に選択するという制度に変更することが決まりました。当該制度の導入は、2026年までに行われることになっていますが、具体的にどのような制度設計となり、どのように運用されていくのかはまだ不透明な部分も多くあります。そこで、以下では、共同親権の概念、背景、利点と欠点、他国の事例、日本における議論の現状と課題について詳しく説明します。
共同親権〜共同親権の概念
共同親権とは、離婚した両親が子どもの親権を共有し、養育や教育、医療などに関する重要な決定を共同で行う制度です。具体的には、以下のような要素が含まれます。
- 共同責任:両親が子どもの生活、教育、医療に関する責任を分担します。
- 共同決定:子どもに関する重要な事項は、両親が協議して決定します。
- 共同サポート:子どもの成長や発達に必要なサポートを、両親が協力して提供します。
この制度の目的は、子どもが両親の愛情とサポートを受け続けることを確保し、離婚による子どもへの心理的・経済的な負担を軽減することにあります。
共同親権〜背景~
共同親権の制度が注目される背景には、以下のような要因があります。
- 子どもの最善の利益:研究によると、両親が協力して養育に関わることが、子どもの心理的・社会的な発達に良い影響を与えるとされています。
- 性別平等の推進:単独親権では、多くの場合母親が親権を持つため、父親が子どもとの関係を維持するのが難しくなります。共同親権は、父親の養育権を保障し、性別平等を促進するものです。
- 国際的な潮流:欧米諸国を中心に、共同親権が普及している国が増えています。例えば、アメリカ、カナダ、ドイツ、スウェーデンなどでは共同親権が一般的です。
共同親権〜利点~
共同親権には以下のような利点があります。
- 子どもの安定感の向上:両親が協力して養育にあたることで、子どもは安定感を感じやすくなります。
- 両親の関与の促進:父親も積極的に養育に関与することができ、子どもとの絆が強まります。
- 心理的なサポート:子どもが両親双方から心理的なサポートを受けられるため、情緒の安定が期待されます。
- 経済的な負担の分担:養育費や教育費などの経済的な負担を両親で分担することができます。
共同親権〜欠点と課題~
共同親権には利点が多い一方で、いくつかの欠点や課題も存在します。
- 両親の協力の難しさ:離婚に至る経緯によっては、両親が協力して子どもを養育するのが難しい場合があります。特に、暴力や虐待が絡む場合には、共同親権は適切でないとされます。
- 決定の遅延:重要な決定を共同で行うため、意見の不一致があると決定が遅れることがあります。これが子どもの生活に悪影響を及ぼすこともあります。
- 法律の整備:共同親権を導入するためには、関連する法律や制度の整備が必要です。これには時間とコストがかかります。
共同親権〜他国の事例~
共同親権が普及している他国の事例を見てみましょう。
- 共同親権〜アメリカ
アメリカでは、多くの州で共同親権が一般的です。裁判所は、子どもの最善の利益に基づいて親権を決定しますが、共同親権が望ましいとされるケースが増えています。共同親権の下では、子どもが両親の家を行き来する形で生活することが多いです。
- 共同親権〜ドイツ
ドイツでは、1998年に共同親権が導入されました。親権に関する法律は、子どもの福祉を最優先に考えるよう設計されています。両親が共同で親権を持つ場合、子どもの生活に関する重要な決定は共同で行います。
- 共同親権〜スウェーデン
スウェーデンでは、共同親権が非常に一般的です。法律は、両親が共同で子どもの養育に関わることを奨励しています。両親が離婚しても、子どもは両親の家を行き来しながら育ちます。
共同親権〜日本における議論の現状~
日本では、現行の民法において離婚後の親権はどちらか一方の親にのみ与えられる「単独親権」が原則とされきましたが、冒頭に記載されたとおり、2024年の民法改正により、他国の動向なども参考に、共同親権制度が導入されることになりました。
- 共同親権〜議論の背景
日本で共同親権の導入が議論されてきた背景には、以下のような要因があります。
- 離婚率の増加:近年、日本でも離婚率が増加しており、離婚後の子どもの養育が社会的な問題となっています。
- 子どもの権利:子どもの権利を尊重する観点から、両親双方との関係を維持することが重要視されています。
- 国際的な動向:他国で共同親権が普及していることが、日本でも同様の制度を導入する動機となっています。
- 共同親権〜議論のポイント
日本における共同親権の導入に関する議論では、以下のようなポイントが重要視されています。
- 両親の協力体制:子どもの福祉に十分に配慮した共同親権を実現するためには、両親が協力して子どもを養育する体制が必要です。これには、カウンセリングや教育プログラムの提供が求められます。
- 法律の整備:共同親権の導入により生じる社会的な混乱、特に、子ども養育への悪影響を最小限にするためには、単に民法を改正して終わるのではなく関連する法律の改正が必要です。これには、専門家や関係者の意見を取り入れることが重要です。
- 実施の際の問題点:共同親権を実施する際の具体的な問題点(例えば、居住地の決定や養育費の分担)についての議論が必要です。また、改正民法では、離婚時に単独親権とするか共同親権とするかという点で協議が整わない場合、裁判所がどちらかの親の単独親権にするか、共同親権とするかを選ぶことになっていますが、どのような基準で裁判所が判断を行うのかは運用上重要な要素となるでしょう。
共同親権〜結論~
共同親権は、子どもの最善の利益を守るための有効な手段として注目されています。他方で、共同親権の実現には、両親の協力体制の構築や親権者間に対立が起きた際の解決方法の整備、裁判になった際の判断基準の不透明性など、多くの課題がありますが、子どもを別れる親が取り合う対象にするのではなく、子どもの福祉を最優先に考えた制度設計、運用が求められます。
共同親権が実際に運用され始めるまではまだ時間がありますが、それまでの間に生じた離婚であっても、法改正の趣旨を十分に考慮し、離婚後の子どもの養育について考える必要があります。親権など、離婚後の子の養育について何かお悩みなどがあれば弁護士を含む各専門家に相談してみるのも良いと思います。制度が複雑ですのでまずは相談することから始めてみてはいかがでしょうか。